借地権付き建物を売買する際の注意点
借地権付き建物を売買する際の注意点
借地権が土地の賃借権であれば、その譲渡につき地主が不利となるおそれがないのにこれを承諾しない場合、譲渡前の土地賃借人の申し立てによって、裁判所は地主の承諾に変わる許可を与えることができるようになります。許可にあたっては、地代増額といった借地条件が変更されたり、地主に対して名義書換料を支払う必要があると判断されることもあります。
1.借地権とは
借地権とは、建物の所有を目的とする①地上権、または②土地の賃借権をいいます。(借地借家法2条1項)地上権の場合、譲渡禁止の特約がない限り土地の所有者は承諾不要で、自由に譲渡することができます。ただ、現実には地上権が設定されていることは多くなく、借地権は土地の賃借権であることが多いようです。賃借している土地上の建物を譲渡する場合には、土地の賃借権も建物とともに当然移転されると考えられます。土地の賃借権を譲渡しようとする場合には地主の承諾が必要で、原則、無断譲渡は禁止され(民法612条第1項)、もし無断譲渡した場合は、借地契約の解除事由になりえます(民法612条1項および2項)
2.土地の賃借譲渡許可の申立て
地主の承諾が得られない場合、借地借家法19条の規定により、裁判所が地主の承諾に変わる許可を与えることができることになっています。(「賃借権譲渡許可」や「代諾許可」という)
3.賃借権譲渡許可の趣旨~信頼関係破壊の法理
仮に、地主の承諾が得られない場合、常に土地の賃借権を譲渡することができないとなれば、土地の賃借人の所有建物の譲渡が事実上不可能となってしまいます。一方で、地主にとっては、土地上の建物の譲渡が行われたからといって必ずしも譲渡が不利益になるわけではありません。
そこで、最高裁は土地の賃借権が無断譲渡された事案で、借地契約が個人的信頼を基礎とする継続的法律関係であることなどを理由として「賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益を為さしめた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、同条(※現行民法612条と同旨)の解除権は発生しないものと解する」と判断し、(最高裁 昭和28年9月25日判決)、これは信頼関係破壊の法理を認めたものと評価されました。
この最高裁の事案は、譲渡後のケースですが、譲渡前に譲渡が解除にならないことを判断してもらう必要が高いといえるでしょう。
そこで立法上、昭和41年の借地法9条ノ2によって賃借権譲渡許可の申立ての制度ができ、同条は、現在の借地借家法19条に受け継がれました。
4.賃借権譲渡の許可を得るために
(1)要件
① 土地の賃借権の存在
② 土地の賃借人が借地上に建物を所有していること
③ 土地の賃借人が借地上の建物を譲渡するのに伴って賃借権を譲渡する場合であること。
④ 賃借権の譲渡が地主に不利となりおそれがこと
⑤ 地主が賃借権の譲渡を承諾しないこと
⑥ 残存期間、従前の経過、譲渡が必要な事情、その他一切の事情を考慮して賃借権の譲渡を認めることが相当なこと
⑦ 申立人が建物の譲渡人であること
⑧ 申立てが譲渡の前であること
(2)「④地主に不利となるおそれがないこと」とは
これらの要件のうち「④賃借権の譲渡が地主に不利となるおそれがないこと」の判断のために、申立時には譲受予定者が決まっている必要があります。
そして、地主に不利となるおそれがあるかは、「借地権の譲受人の資力、職業、社会的信用ならびに土地および地上建物の使用目的などの諸事情に照らし、賃貸人が当該土地を賃貸する場合に賃料を確実に徴収することができるかなど」(東京高裁 昭和56年1月27日決定)の検討や「賃借人が譲受予定者との間の信頼関係を維持していくことができないと客観的に認められる場合であることを要する」(東京地裁 昭和56年9月24日決定)などとされます。
例えば、譲渡予定者が反社会的勢力であったり、風紀上好ましくない営業をしようとする者であったり、地主の商売と同業で競争関係に立つことになるようなケースも不許可事情として考慮されます。
裁判例では、地主と譲受予定者との間で従前からトラブルがあったケースが不許可とされました。(東京高裁 昭和52年10月27日 福岡地裁大牟田支部 昭和43年9月26日決定)
5.借地条件の変更や名義書換料が発生しうること
裁判所は許可に付随して、当事者間の利益の衡平を図る必要があるときは、①賃貸件譲渡を条件とする借地条件の変更を命じ、又は②財産上の給付(名義書換料)を許可の条件とすることができます。①の借地条件の変更の多くは、地代の増額です。地代が不相当に安くなっているケースが考えられるでしょう。
②は、名義書換料、譲渡承諾料などとも呼ばれ、この金額を決めるに当たり原則として鑑定委員会の意見を聞く必要があり、都市部では借地権価格の10%程度の金額といわれます。
6.派生的な項目にもご留意を
具体的な事案に応じて、借地権の種類(旧法が適用されるか、定期借地権かなど)、借地の一部の賃貸借を譲渡できるか、地主の介入権(優先譲受権)の行使、敷金は承継されるか(原則承継されないが、承継される特段の事情はないか)、といった検討項目も考えられます。こうした個別の判断が必要となりえるため、事前に専門家に相談することをお勧めします。
【借地権】
▶借地権とは次の二つの権利のどちらかのことである(借地借家法第2条)
1.建物を所有する目的で設定された地上権
2.建物を所有する目的で設定された土地賃借権
従って、『資材置場』にする目的で設定された土地賃借権は「借地権」ではない。また、青空駐車場とする目的で設定された土地賃借権も「借地権」ではない。
at home2023.12 抜粋