都筑区の歴史を紐解く 男全冨雄様「望郷」

望郷

昭和20年、北山田に空襲があった。間もなく戦争は終わった。

文・絵 男全冨雄様(「望郷」から引用)

空襲③

深夜、悲鳴のようなサイレンに姉妹で防空壕に飛び込んだ。怖いもの見たさから、そっと壕から外に出た。きれいだの一言。照明弾で真昼のよう。無数のサーチライトが敵機を掴む。高射機関銃の曵光弾が流星のように追う。高射砲が炸裂。焼夷弾が田畑を舐めつくす。破片の落下物で身動き出来ない。電波妨害のアルミハクが夜空に舞う。横浜、川崎が燃え上がり、深夜の夕焼け。突然三人の耳元に異常な風圧を感じた瞬間、裏の竹藪に砲弾が轟音で炸裂。高田の高射砲陣地が慌てた低空射撃のそれ弾。親父の爆弾。バカヤロウ 死ぬぞ 隠れろ!

 

戦後③

全部出てしまった子宮を少しづつ腹の中に入れほっとすると、また出てしまい、裸になって血だらけになりながら、治療した。お産の時、逆さ子は子宮の中まで片手を入れて、子牛を子宮の中で反転させるのは大変だった。お産で死んだ乳牛が多かった。三十七頃、豪州からジャージー種の小型の赤茶の乳牛が導入されたが、粗食に耐え脂肪分の多い乳が出たが、乳量が少ないのであまり繁殖しなかった。『北山田の夜空は空気がきれいなので月が澄んでいた』▷盆休み 澄みたる月に 吸い込まれ ▷盆の月 我れ一人では 惜しくなり ▷盆提灯 知らぬ顔して 盆踊り ▷空模様 首筋痛し 盆踊り ▷浴衣着に 戸惑う視線 盆踊り ▷盆踊り 売店気になる空 模様 ▷あれやこれ それぞれ主役の 盆踊り ▷旧盆の月に現世語りかけ

 

洪水

 

上流に、すみれが丘の造成は始まってから、田圃は毎年洪水に見舞われ全滅した。ようやく収穫と思うと、造成の赤土が流れ、特に道路下の水田は砂利と赤土で復帰がむずかしかった。刈り取った稲が流されても、開発業者から何の補償もなかった。川も赤土で埋まり、鰻、カタッケ、八目鰻、蟹が全滅してしまった。

 

農業に暗雲

 

三十八年頃、開発業者から、重代、神無谷戸まで開発したい話があり、拒否した。四十二年、港北ニュータウン開発の話があり、連日、公民館で論議が交わされた。

北山田に空襲
解体する前の男全さん宅
農地は壊され造成が始まった

五十五年完成

 

買収時の約束は五十五年完成であり、希望を持って参加したがオイルショックとの口実で遅れた。地権者は五十三年、むしろ旗を立てて、鉢巻、タスキで市役所に陳情した。結果は虚し六十二年に延期され、六十五年に再延期とまた、平成七年に再々延期となり、諦めの心境になる。この計画は、市・公団が計画し、住民に協力を呼び掛けて実施されてきたが、高速鉄道六号線は地元に何の話もなく廃止され、四号線も鶴見から日吉間は廃止され、開通はめどがつかず、実行されなければ買収目当ての計画としか思えない。平成七年度には、民間用地は約束どおり換地になることになっているが、公園・事業用地の完成は、残務整理としてかなり遅れると思う。四十五才で買収が始まり、六十八才になってようやく民間用地だけは終わるが、鉄道が開通しない限り完成はない。

バブル崩壊による不動産の暴落は、ニュータウンの是非を考えさせられる。区画整理事業は、農地の過酷な労働から解放してくれ体は楽になったが、自然破壊と人情崩壊は精神的に苦痛がともなっている。

人生の長短に関係なく、充実した生涯にしたいものだ。

裏山に防空壕を掘って避難した
戦車を格納する戦車壕
埋め立てて作られたニュータウン
表題2