2021.8.2石油の期限か?

 

植物プランクトンDicrateria rotundaが 石油と同等の炭化水素を合成する能力をもつことを発見

 

◆植物プランクトン:ハプト藻の一種であるDicrateria rotunda(D. rotunda)が石油と同等の炭化水素(炭素数10から38までの飽和炭化水素)を合成する能力をもつことを発見した。これまでいずれの生物からもこの能力をもつものは報告されていない。

 

◆北極海の研究航海で得られた株ARC1を始めとする計11種のDicrateria属を調べたところ、全てが一連の飽和炭化水素を合成する能力を有しており、この生物種に共通する能力であることが明らかとなった。

 

◆D. rotunda ARC1の飽和炭化水素は暗所および窒素欠乏条件で増加した。今後、これらの飽和炭化水素の生理機能や合成経路の解明することにより、バイオ燃料の開発につながる可能性がある。

 


国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人豊橋技術科学大学
大学共同利用機関法人自然科学研究機構生理学研究所

複数の電子顕微鏡画像により復元した3次元構造

3次元構造

●石油と同等の飽和炭化水素をつくる生物を世界で初めて発見

 

 

本研究グループは、海洋地球研究船「みらい」による2013年の北極海の研究航海において、北極海の海氷減少に伴い、ベーリング海に生息する植物プランクトンが北極海へ侵入し、現場で生産をしているかどうか調査する目的で植物プランクトンを採取していました。そのうち単離培養が可能な植物プランクトンについて、いくつかの種類の単離培養を実施し、ハプト藻に特有の有機化合物を持つか否かを確認していたところ、Dicrateria rotunda (D. rotunda)北極海株ARC1(図2)が炭素数10から38までの一連の飽和炭化水素合成することを発見しました(図3a)。この組成は、ガソリン(炭素数10から15)、ディーゼル油(炭素数16から20)、燃料油(炭素数21以上)と同等でした。このような炭化水素合成能力を持つ生物は過去に報告例がなく、本研究の成果は初めての発見となるものです。Dicrateria自体は太平洋や大西洋など他の海域でも広く生息することがわかっています。そこで、日本、フランスの植物プランクトンのカルチャーコレクションに保有されている10種のDicrateria属の炭化水素組成を調べたところ、すべての株で、北極海株ARC1と同じく炭素数10から38までの一連の飽和炭化水素を合成する能力を持つことを確認しました(図3b)。つまり、石油と同等の炭化水素をつくる能力はDicrateria属に共通の能力であることがわかりました。今回調査した11株では、飽和炭化水素の中でも特に炭素数10および11の短い炭素数の飽和炭化水素をより多く合成する特徴を持っていることも明らかにしました。

炭酸水素量